葉鳥 ビスコ「一瞬間のロマンス」
『桜蘭高校ホスト部』の著者の受賞デビュー短編です。
緑の幼なじみ詩紀は心に男の子の人格シキを秘めている。そんな詩紀が両親の離婚を苦に自殺未遂をし、完全にシキと意識が入れ替わってしまう。緑は詩紀とは違う少年シキに惹かれていくようになる。
シキの心は全くの男の子なので、少年と少女の恋愛モノ、といった感じで、あまり百合ぽく感じ無いようにも思えますが、多少反則技的な見方をすれば少し違ってみえるかもしれません。
詩紀の状態は、現実的にはイマジナリー・コンパニオンや多重(二重)人格のようなモノと言えそうです。
なので、そのような題材を扱った他の作品でのパターンを適応してみると、シキは、詩紀が受け入れるわけにはいかなかった記憶や感情を担当する人格として現れた、と考えることも出来そうです。
実際、作中でも完全に入れ替わるきっかけが両親の離婚という、まさにそのような状況なわけですし、ならば、そもそも男の子のシキを別人格として心に持たざる得なかったのもそういうコトだと考えるのもアリに思います。
そして、「17年間ずっとだ」とシキが告白した気持ちは、女の子の詩紀がそのままでは維持できなかった、シキに託さざるえなかった感情と考えるのは可能に思います。詩紀が、緑に 心の中の男の子のことを教えるのが6歳の時というのは、絶妙な歳だと思うのです。
実際読み返してみても、そうおかしくないように思います(多少無理がなくもないですが)。ラストで詩紀が「私 ずっと 知っていた」というあたりなんかは違った切なさになってしまうようにも思いますし.
作中で直接示唆されていない、ヒロイン緑の理解する解釈とは別の、邪推の類でしかないのですが(でも作者が考慮していたとしてもおかしくないようにも思え)、全くの無茶でもないのでは...なんて考えてたら結構お気に入りになってしまいました。
※追記:ようは読み手が、詩紀&シキを、二人の少女と少年と感じるか、少年の人格を1面にもつ一人の少女と感じるか、の問題.