那州雪絵 「水妖物語」「誰か」

那州雪絵の代表作は『ここはグリーン・ウッド』でしょうか。健全な男子寮ものでまだ男の娘やBLなネタのほうが多いですが、百合系要素は「Sの悲劇」(や「天国へのハシゴ段」)にちょっとあるといったところです。GW以外もほぼ百合系作品はないですが、気になる作品があるにはあるので以下ネタばれありでメモしておきます。

水妖物語

『嵐が原』に併録の短編、初出は『メロディ』2000年6月号。
嵐が原 (ジェッツコミックス)


奈穂は服飾学校から同じ会社に就職した仁美と二人暮らしをはじめるが仁美は内勤、奈穂は自宅作業。奈穂はそのうち毎夜水音をさせながらドアに近づく音を聞くようになる...


菜穂の心情を中心にそえた不思議系の好編といったところでしょうか。
主人公奈穂の心情にフォーカスしていて奈穂の仁美に対する心情描画がほとんどなく進むので、登場人物が二人しかいないにもかかわらず、つい仁美は脇役的に思えてしまいます。

しかし一緒に暮らせるくらいの仲です。仁美は、一人部屋に残る奈穂を心配したり、水音に怯える奈穂のため奈穂の考えた原因を元に子供のころ奈穂が住んでいた土地に連れていったり、と、何かと親身に世話を焼きます。そうかといって水音に怯えだした当初の奈穂への態度などはべったりしていない距離感があって恋人的ではないですが(カップル的要素があれば、そもそも奈穂が怪異が起こるような寂しさを感じてない可能性大でしょうし)、お姉さん的な愛情があるようには思えます。まあ“おねーちゃん”が重要キーワードなわけですが。ラストシーンにしても。

ラストページはなかなかにいい感じの二人(の距離感と表情)だと思いました。


さて、この作品で悩ましいのは、絵柄的に場面によっては男の子に見えてしまうことがあるということでしょうか。
那州雪絵はある時期から女性のまつ毛をあまり描かなくなっていて、少女の顔のアップが少年的に見えたりすることもあるのですが、とくに、これの描かれた時期はまだ『魔法使いの娘』は始まっておらず おそらくBL系を主?にされていた時期のようで 男性らしさが強まっているように思います。時期や絵柄的にどうしてもBLとして考えてた作品だったのでは、と連想してしまえるのでした。

いや、別にそうであったとしても無問題なのですが、男二人だとBLぽくみえるのに女二人だとGLぽくみえない(これを雑誌で読んだ頃は今ほど百合に侵されてなかったので)、というのが、そういうものだろうと思いつつも微妙に気になったのでした。


橘裕「三番目に好きな人」のハシラで、男二人で考えていたのをが怪しくなるので女性にかえた、というようなことを書かれてます。そういう感じ方をする人は多そう、でいいのかも。あと、こちらをみると山岸涼子は「白い部屋のふたり」を男同士のつもりで描いたが女同士に変えざる得なかったようなことが紹介されてます。そういえば那州雪絵「誰か」も当初は男の子(というか構想段階のGW)で考えていたってあとがきにありました。わりとそういうものかも。

誰か―STRANGER

花とゆめコミックス版『ここはグリーンウッド(1)』に併録。
ここはグリーン・ウッド 1 (花とゆめCOMICS)


3人だけ残った女子寮、暗闇の怪談で霊体呼びを試しみれば見事4人目の声。明かりを付けると4人とも見知った顔、幽霊は誰か?


女の子どうしの友情話ですが、主人公格のかおるには彼氏がいて(いい役をして)るので、百合系作品という感じはないです。が、脇でちょっと「ユリ」発言があるのでメモしておきます。

まず1985年に描かれたこの作品では、女性同性愛者的な意味で「ユリ」が使われているのですが...

使われている箇所は2箇所。P171の酔ってる乃梨を連れて行く涼子のコマの手書きの台詞部分

乃梨「こわかったら一緒にねてやるぞーかおるー」
涼子「あなたユリだったの?」

と、P177でカオルと彼氏が惚気た直後、

乃梨「…なんであたしらには男がいないんかね」
涼子「あら あなたユリじゃなかったの?」
  「なかよくしましょうよ うふふ」
乃梨「……」

の、どちらも涼子の台詞として出てきます。

涼子が(「ユリ」と思った)乃梨を口説いている、ようにみえる...乃梨のほうは、表情的にP171のことは覚えてなさそうだし誘われてちょっと引き気味の表情なのでノンケぽいですが、涼子のほうはガチなのか、ただの軽口なのか、どちらとも取れそうです。


 関連してついでにですが、''『それからどしたの?子猫ちゃん』''という作品があり、これには設定や名前・性格は多少違うけれど「誰か」のカオル・乃梨・涼子のキャラとほぼ同じ絵柄の早苗・諒・令子が主役として登場します。
この中で涼子に対応する令子は、''男嫌い''、ということになっているのでした……さすがに偶然ではなく意図的じゃないとこんな設定にはならんのでは……よね?

とはいっても女の子が好み、というような描写はないので、そう解釈するのは妄想の類なのですが、しかし、そういうふうに思って読み返しても無問題に思えたりします。「誰か」の乃梨に対応する諒 が、前後不覚に酔って男友達の千葉の家に(大事はなかったけど)泊まってきた直後の会話や、後日の千葉との仲を嗅ぎつけたときの反応などは、令子の台詞だけみるとわりとらしく思えたり、です(絵やコマの流れをみると邪推だろう、ですが)

とまあ、百合に侵された脳で旧作を読み返してみたら、想定外に楽しめてしまったのでした。