慎結『星降り坂一丁目三番地』

星振り坂一丁目三番地 (IDコミックス 百合姫コミックス)

慎結『星降り坂一丁目三番地』。百合姫掲載6本(1年分)+描きおろし1本。描きおろしは「星をあげよう」(8P)で『星降り坂一丁目三番地』は書籍タイトルでした。(「発熱」は……ああ「百合姫Selection vol.3」はまだama等で普通に購入できる模様)


内容は既刊同様 女の子同士の関係を描いた甘い話イタイ話いろいろ。個人的なお気に入りは「心、咲ク季節」あたり。 「my sweet clover」2作とかあと「ショコラと」とかも…と半分以上列挙してたら意味ないですね。(まあ作家ハマりしてるだけ)

「ショコラと」「心、咲ク季節」は細かいことやってて面白いけれど地味だよなあです。初出では2号続けてこれらが載ってて微妙にヤキモキ…で余計に気に入ってしまった面はあるかも。
以下2作のネタバレ全開のメモ。


「心、咲ク季節」
とある美大、雪の屋根上で雑談、話の流れにまぎれてルイはややに「やや 好きだけど」と告白するが「わたしもルイちゃんの絵好きだよ」と見事にスルーされる。さびしく作業するも想い募り ゆっきーを愚痴に付き合わせ 仕舞には飲み会を言い出す始末。有志を募りアトリエで飲み始め……[バレ] 後光さすようなややの言葉にルイは再度好きと告白すると酔った観衆に混ぜっ返されヒートアップ。「あたしの“好き”はこうなの!!」とクマのぬいぐるみを手に取りその唇にキスをしてみせ、しかし、場に耐えきれずアトリエを飛び出す。追いついたややは「わたしの“好き”も見てよ」。ルイが振り返るとややはぬいぐるみを抱きしめている……「も〜どっちなのー!!」「なにが――!?」いちゃつく二人を尻目に外野は帰り支度。
粗筋書いてみたけど大事な部分を抜かしていて、ややの「わたしの“好き”をみてよ」の直後のコマ、ぬいぐるみにキスしそうなポーズ。これで読者にはややの“好き”がルイの“好き”と一緒だとわかり、ルイが振り向く前に抱きしめるポーズに変えたことで“どっちなのー!!”な意地悪をしてみせたとわかる。
読み返して、ややの側から考えれば納得で、ルイのどさくさ紛れの最初の告白は一言きりで やや が誤魔化したのをさらにはフォローせずなので本気かどうかわからない。その後ルイは屋根の上でゆっきーと楽しげに雑談していて、静かに二人を見上げるややのコマはまさに“どっちなのー”という気持ちだったと推察できる。ちょっとくらい意地悪したくなっても当然だよなあ、です。
ラストページの後どうなったかは、タイトルページをみればよく。読む前は話の季節・主要キャラ二人の性格(雰囲気)や間柄を説明するイメージ画に見えたものが、話を読み終えた後に見れば、照れたルイと笑顔のややが一つのマフラーを二人で巻いて腕組みぬいぐるみ持ってる姿はラストページ直後の二人にしかみえず、カップルになったと受け取れる。
読み返してニヤニヤしてしまうハッピーエンドでした。
追記:つい勢いで“キスしそうなポーズ”“わかる”と言い切ってるけれど 抱きつく動作の溜めにも見えるコマなので正直初読は迷い確定できずでした。読み返して表紙をハッピーエンドとみて見上げるややのコマを考えたらキスしかけたと解釈するのがよさそうと思った次第)


「ショコラと」
高二でまわりが進路調査で迷うなか都はヘアメイクの道へ決めており、みなに可愛がられマスコットのようなショコラも"ナイショ"だけど決めている様子。あるときトイレで俯せってるショコラをみかけた都は助けに入ると……[バレ] ショコラは学校を辞めて結婚すると告白する。結納・式無しだけど、と、指輪をみせてもらった都はそこに刻まれたIKUO&SHOKOの文字から相手の男性を察し、ショコラが最近顔色悪く今ふせっている意味に気づく。「だれかを愛するって幸せなんだね いろいろなことがありすぎて けっこーキツかった」ショコラの言葉に都は言いかけた言葉を飲み込み、想いを散らす。翌日都はショートな髪で登校。まわりから「失恋?」と気にかけられるも否定。その後では担任の進路調査票の催促に教室は慌ただしく“イクちゃんお嫁にもらってー”とヤジが飛ぶ。ショコラはその喧騒を笑顔で楽しみ、都はうつろげにショコラを想う…
身も蓋もなく短く書いてみれば、好きになった一見おとなしそうな少女が実は担任の子を身ごもり中退して結婚する予定だと知ってショック…で髪切った(けど失恋の自覚薄)、といったところでしょうか。
直接的に記述しないスタイルで描かれているので、あまり読み飛ばしているとわかりにくいかも……さすがに相手が担任だとは気づくだろうけど、担任と確定できるタイミングは人によって違いそう。指輪のIの字がわかりにくい書体なので迷うけど、指輪の次のコマで進路相談らしきことを喋ってる男性の絵が出てくるので 都が思い浮かべたのは担任?となる。ここで?になった人(まあ自分です)は最後のヤジで確定できるのだけど、読み返してみれば、5P目の教室の喧騒を描いたコマの隅に“いくちゃん←(担任) テキトーすぎ”という書き文字があり先にこれに気づいていれば指輪のシーンの時点で確定できる寸法。(読み返したときに気づけてうれしい類の伏線だけど先に気づけなかったのは悔しいかもと)
最後のヤジは相手確定の要だけど同時にショコラの状態を表すのにも使われてるようで、ショコラはこの程度のヤジで不安げになることもなく余裕で笑顔。同年代より人生を数歩進めたような女の子と失恋の女の子の隔たりは大きいよなあです。


タイトル
「星をあげよう」で1丁目が出てくるので、きっとお祭り味のシーンがタイトルの場所なんだろうなあ。


追記
「ジュリエットx2」は掲載時 直前2作に比べハデだったので安心し…ざっくりにしか読めてなかったようで読み返してると気になる……こちらみてなるほどです。