藤田和子『小麦パニック』全5巻

小麦パニック!(1) (フラワーコミックス)


親の海外赴任のため日本に残る夕海は 一つ麦女学院に転入することになりそこで学園の伝統的アイドル"金の麦"役の羽柴香に気に入られ、また自身も一部の女生徒たちに"金の麦"候補に想われてしまい...


ドタバタな学園コメディです。1985-1986年の作品。(追記:こちら で50P試読可能のよう)
こなれた安定した絵でまさにその当時のうまい少女漫画といった感じで、個人的にかなりツボなのでした。

百合的な要素はどちらかというとネタ的な扱いでしょうか。設定やネーミングは百合作品を崩しているような趣がありそうに思います。「"お姉さま"ほしくありませんか」なんて言い方はそうでないと出てこない気がしますし。百合作品だとカップルになりそうなポジションの夕海と香はその気なく男性を好きになるわけですし、大半の女生徒達は憧れどまりで、ほぼ唯一の百合キャラである智夏はヘンジン扱いですし。が男性との仲はほとんど進展せずなので(絵莉子くらいか)、いい具合に女の子たちの仲が描かれている感じでしょうか。読み終わってみますと反則的なオチとあわせて反則的に百合なんじゃね?これ、と思えたりします。

百合視点抜きで読んでいたら、正直なところ、いろいろ中途半端感はあるでしょうね...もし当時読んでいたらきっと、せっかく実った男の子の恋が進展せずのユ○オチに腹立ててそうです。

しかし今だといろいろ感覚も変わっていますね。<以下ネタバレ>


ユメオチ、よりも、無限ループモノとしての意味が強い感じです。時代の近さからビューティフルドリーマーを連想してしまえますが――今ならエンドレスエイト…ではなくADVゲーム――作者が意識してたかはどうかは別として、永遠に繰り返される高校生活、それを望んだのは誰?と思えたりします。夕海...いえ奈月もなかなか怪しく。

なんせ奈月が香に"キライだよ"と言われた返事に"好きです"と返した直後で(夕海視点とはいえ)ループですからね。"第1巻につづく"で再読みが読者に示されてるわけで、読者は、奈月が香のことを好き、ということを知った上で読み返せるわけで。ただ、どういう意味の"好き"かは判断迷う類ですが。

生徒会長というのは、奈月のような性格では、年上でみんなのアイドルである香に親しく側によれるポジションとしては最良の類にみえます。なのでなかなか手放したくないのも当然に思えます。また生徒会として、なんだかんだと香をいじめるようにちょっかいを出せてて楽しそうです。金の麦のためですから、と一肌脱いだりできますし。

あと、奈月は夕海が最初から妹だとわかっているわけですから、最初の生徒会としての夕海の扱いも対妹としての気持ちも混ざってそうです。お父さんに会ったりと奈月には充実した一年だったのでは、です。

とまあ、サングラスゆえ最初の見た目は色物キャラですが、作者の孔明への愛情の強さとか(読者人気とか)話の流れ的にも影の主役でしょう。裏表紙登場皆勤ですし、よくよくみれば1巻のハシラでの登場人物紹介の順番もちゃんと香より先だったりしますし(そういう意味では都並は多少予定とずれたのかもと邪推)。


百合を崩しているようで 裏ではちゃんと一途なキャラが屋台を支えている…ようにも見えなくもない、なんともいえない作品でした。


※もともと こちら のレビューをみて興味をもって読んだのですが、たしかにかの作品との類似もなかなかに楽しめました。(もちろんリスペクト的な感じ)
藤田和子作品としては『小麦パニック』の前作(氷室冴子 原作)の『ライジング!』も読んでおいたほうがよさそうですが未読。そのうち...(追記:読了、百合要素はあまりないけれどたのしく)