『おにいさまへ』での百合の花

『anise1971-2001』をぱらぱら読み返してたら対談で「アランの通信欄にはずいぶんお世話になりました」のような記述があって、『allan』はちゃんと当時のレズビアンの方の役にたっていた模様。逆にいうとレズビアンミニコミ誌と『allan』以外では当時そういう雑誌はなさそうな感じだったのかな、と。もちろんレズビアンの方の基準だから、"百合"という言葉が他の雑誌で使われていた可能性については別問題だけど... ただ言葉を使う人が集まらないことには使われ続けないだろうとも思うので、薔薇族以外で常時"百合"という言葉が使われたメディアは allan が最初なのかも、という気が結構してきた。もちろんallan以前にも"百合"という言葉を使ったメディアはあっただろうけど単発的だったんじゃないかな、と(ミニコミ誌関係はどうだったんだろ?)。

(※aniseのJUNEの説明で"当初は女同士ものなども掲載されていた"とあったので、試しに1978年のを1冊購入。残念ながらそういう作品はなかったけれどレズビアンの方の投書が載っていた。でも"百合"という言葉は使われておらず)


もともと "百合"の花の描画が、作者の意図として、エス的/同性愛的/百合ジャンル的なニュアンスの暗喩として成立するのはいつからなのか、が気になって調べていたわけなんだけど、少なくともallan内で普及する(1981,2)以前は、(1976以降に)百合が描かれてても暗喩の可能性はかなり低いんじゃないかな、と思えてきてる。

なのでググってみかけてた こちら での赤毛のアン(1979)の女の子二人の手前に百合咲く場面については時代的に偶然だと思う。1979だと言葉"百合族"は存在しているけれど薔薇族読者でも"百合族薔薇族女性読者"と思ってる人も多そう?な時期だし、なにより"百合"という言葉に"エス"のニュアンスがまだ混ざっていない時期だろうし。薔薇族の対語として百合族レズビアンの性的な意味合いの強いまま、少女(童女)二人の関係の暗喩として用いることはないんじゃないかな、と。

前回書いたように具体的なことはわかっていないけれど、エス的なニュアンスが混ざった"百合"が一部の好事家にでも使われだすのはおそらく1980年代後半から1990年代前半のどこかのタイミングじゃないかなと睨んでるので... 少なくとも80年代前半以前ではエス的なニュアンスのある使い方はまだなかったのではと思う。


気になるのはアニメ版『おにいさまへ』(1991-1992)。
第15話で、ソロリティを辞めさせられた仲矢さんが庇ってくれた主人公の奈々子にお礼をいうシーンがあって、ここの会話自体は原作漫画にもあるけれど(ただしバスの中)、アニメの仲矢さんはさらに1輪のピンクの百合の花を奈々子に渡していたりする。わざわざ描いてる以上意図的なわけで……
仲矢さんの反感が好感に変わって友情がメバエたような場面で、同性愛のニュアンスがあるとするのは無理がありそうだけれど、仲矢→奈々子でエス的なニュアンスの感情があるかもってのなら、それはありのように思える。
で、そういう暗喩だとすると1991年の時点で"エスの混ざった百合"があったということなるのだけど、仮にあったとしても広くは普及はしてなさそうで、主要スタッフに好事家がいたか、作品テーマ的に研究していたか、してなきゃで……それはありえるものなのかどうか。世間的に大流行したわけでもない、その時点で10数年前の漫画をわざわざアニメ化しているのだから『おにいさまへ』に拘ってた人はいたのかもしれないけれど……。(百合ジャンル的な機運って当時あったのか?)

意図的な暗喩だと思いたい反面、制作された時期を思うと単なる偶然、百合的なモノとは全く関係のない演出意図で描かれた花の可能性も高そうで...悩ましい、です。



※前回失念していたけれど1990年代初頭の百合ジャンル?ファンに「おにいさまへ」は影響のある作品だったんですかね? 地上波でなくBSだから出来たような作品だと思うけれど、BS故にそれほど知られた/視聴された作品でもなさそうで。(レンタルビデオはどうだったんだろ)


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